和久傳の本 桑兪
「ゆっくりと、じっくりと」本を読んでいるのを、そばで見てくれていたおばあちゃんの口ぐせでした。
昨今は、光のごとく早く文字が送られてきて、文意をかみしめる間もなく、消えていきます。
そうした時の流れに逆らうようですが、一字一句を、ゆっくりと眼で追ってじっくりと
心の奥底に残るような。
そして、ある時にはその一節が想い出されて、親しい人との集いのおりに話題になるような。
そんな小さな冊子をつくりたいと思い願うようになりました。
「桑兪」の桑は、古来霊木とされてきた樹で、その葉は絹を生むお蚕さんを育むものです。
兪は楡の木のことで、これも紙や糸になる有用な植物です。
その楡の文字を「兪」と表すと「善し」「良し」との意味になるそうです。
お蚕さんが吐く糸が何千本と機にかけられて一枚の布となって人の身体を暖かく包むように、
お読みくださる方々に桑樹にそよぐ心地よい風のように本書をお送りできれば幸いです。
平成19年11月創刊によせて 代表 桑村綾